片頭痛
日本人の片頭痛有病率は約8~9%とされ、約840万人の方が片頭痛もちと言われています。女性に多く、男性の約3.6倍で、特に20代~40代の女性に有病率が高いことが知られています。
片頭痛が起こる仕組みとしては、何らかの刺激により三叉神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経伝達物質が放出され、脳や脳の周囲の血管が拡張したり炎症を起こしたりすることで引き起こされると考えられています。また、片頭痛患者さんの75%には、頭痛を起こす要因があると言われています。その要因としては、ストレス、ストレスからの解放、疲労、寝過ぎや寝不足、月経周期、気圧の変化、温度差、匂い、音、光、空腹、脱水、アルコール等があげられます。
片頭痛は、仕事や勉強、家事など日常生活に大きな支障をきたすにもかかわらず、多くの方が適切な治療を受けていない現状があります。ある調査によると、片頭痛患者の約74%が「寝込む」または「日常生活にかなりの支障がある」と感じているにもかかわらず、医療機関を受診したことがある人は約30%にとどまっていると報告されています。
片頭痛は「我慢するもの」ではなく、適切な治療により症状の軽減や生活の質の向上が期待できます。予防治療や新しい治療法も進歩しており、ぜひ専門の医療機関を受診することをお勧めします。
症状
頭の片側または両側がズキンズキンと脈打つような強い痛みを繰り返します。身体の動きで痛みが悪化するため、横になってじっとしていたいと感じます。吐き気や嘔吐を伴うことが多く、光や音に対して過敏になるといった随伴症状がみられることもあります。
誘発因子・増悪因子
- ストレス、ストレスからの解放、疲労、寝不足、寝過ぎ
- 月経周期
- 天気の変化、温度差、光、音、におい
- 運動、欠食、性行為、旅行
- 空腹、脱水、アルコール、特定の食品
閃輝暗点
痛みが起こる前に前兆を伴うことがあり、その代表的なものは、「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれるものです。急に視界にギザギザ・チカチカした光のようなものが現れ、徐々に広がって視野の一部が見えにくくなる視覚異常です。通常5分~60分で自然に消失します。多くの場合、閃輝暗点の後に片頭痛が起こりますが、頭痛を伴わない場合もあります。
原因
大脳皮質拡延性抑制(CSD)
脳の神経細胞の過剰な興奮が波のように広がり、その後に抑制状態が続く現象。
これが視覚野に及ぶと閃輝暗点が生じると考えられています。
脳血管の収縮と拡張
ストレスや睡眠不足、特定の食品(チョコレート、赤ワイン、チーズなど)の摂取により、脳の血管が急激に収縮・拡張し、視覚異常を引き起こすことがあります。
注意すべき点
初めて閃輝暗点を経験したとき
特に40歳以上で脳血管障害の可能性もあるため、精査を要します。
頭痛を伴わない閃輝暗点が頻繁に起こるとき
脳梗塞や脳腫瘍などの可能性も考慮し、精査が必要です。
視野の異常が60分以上持続するとき
通常、閃輝暗点は60分以内に消失します。長時間続く場合は他の疾患の可能性も否定できません。
対処法と予防
安静にする
閃輝暗点が現れたら静かな暗い場所で目を閉じて休息しましょう。
水分補給
脱水は症状を悪化させ得るため、適度な水分補給を心がけましょう。
トリガーの回避
ストレス、睡眠不足、特定食品など、ご自身にとって閃輝暗点の引き金となる要因を把握し、可能な限り避けるようにしましょう。
治療
1.急性期治療
- 鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDsなど)
- 制吐剤
- トリプタン系製剤
- ラスミジタン(レイボー®)
- セルフケア(部屋の照明を暗くする、安静にする、頭を冷やす)
2.予防療法
片頭痛発作時の対策のみでは日常生活への支障が改善されない場合、片頭痛発作をできる限り起こさないようにする治療(予防療法)が必要となります。予防療法は、発作回数を減らし頭痛の程度を軽くする、急性期治療薬の効果を高める、発作による日常生活への支障を減らすことを目的とします。
- カルシウム拮抗薬(ロメリジン)
- β遮断薬(プロプラノロール)
- 抗てんかん薬(バルプロ酸)
- 抗うつ剤(アミトリプチン)
- CGRP関連抗体製剤
- リラクゼーション(ヨガ、ストレッチ)
- 生活習慣の改善(不規則な食生活を避ける、寝不足や寝過ぎを控える、禁煙、日頃から適度の運動を心がける、発作誘因となること(アルコール摂取、炎天下の外出、人込み)を避ける
CGRP関連抗体製剤
片頭痛の病態において、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)が重要な役割を占めることが明らかとなり、このCGRPを標的とした治療薬の開発が進められてきました。
CGRPは、三叉神経節や硬膜上の三叉神経末梢に存在する神経ペプチドであり、過剰に発現すると血管拡張作用や神経原性炎症を介して片頭痛発作を引き起こします〈三叉神経血管説〉。CGRP関連抗体製剤は、このCGRP活性を阻害することで片頭痛発作の発症を抑制する効果が期待されます。
抗CGRP抗体としてガルカネズマブ(エムガルティ®)、フレマネズマブ(アジョビ®)、抗CGRP受容体抗体としてエレヌマブ(アイモビーグ®)があります。ガルカネズマブ、フレマネズマブがCGRPに選択的に結合してCGRPの生理活性を阻害する抗CGRPモノクローナル抗体であるのに対して、エレヌマブはCGRP受容体を特異的に阻害することでCGRP受容体シグナルの伝達を阻害する、抗CGRP受容体モノクローナル抗体です。
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