脳出血
脳出血とは、脳実質内の血管が破綻し、脳内に血腫が形成される疾患です。
日本では年間約3~4万人が発症しています。1960年代までは脳卒中の約7割を占めていた脳出血は、近年では2割程度までに減少しています。脳出血の発症率・重症脳出血率の低下の要因として、「高血圧治療の進歩と普及」があげられます。また、食塩摂取量の減少、喫煙率の低下、健康診断受診率の増加といった公衆衛生の進歩も背景にあります。
高血圧以外にも、脳動静脈奇形や脳アミロイドアンギオパチーなどが原因となります。出血量や出血部位により神経症状や予後が大きく異なるため、早期の診断と適切な初期管理が重要です。
1. 疫学
- 脳出血は日本における脳卒中の約2割を占める
- 高血圧症の既往を有する50~70歳代男性に多く発症
- 年齢とともに脳アミロイドアンギオパチーによる皮質下出血の割合が増加
- 飲酒、喫煙、抗凝固薬・抗血小板薬の服用歴もリスク因子となる
2. 分類
脳出血は出血部位により以下のように分類されます。各部位で特徴的な症状を呈します。
出血部位 | 症状の特徴 |
---|---|
被殻出血 | 片麻痺、感覚障害、失語、眼球偏向(病側) |
視床出血 | 感覚障害、意識障害、眼球偏向(対側)、垂直注視麻痺 |
皮質下出血 | 片麻痺、感覚障害、失語、痙攣 |
小脳出血 | 回転性めまい、嘔吐、歩行失調、構音障害、意識障害 |
橋出血 | 深昏睡、縮瞳、除脳硬直、呼吸障害 |
3. 原因
- 高血圧性脳出血(最多、被殻・視床に多い)
- 脳アミロイドアンギオパチー(高齢者、皮質下出血)
- 脳動静脈奇形(AVM)、海綿状血管腫
- 抗凝固療法中、抗血小板薬使用中
- 頭部外傷後
- 腫瘍出血(転移性腫瘍、原発性脳腫瘍)
※高血圧による細小穿通枝動脈の細動脈硬化(Charcot-Bouchard動脈瘤破裂)が主要病態とされます。
4. 症状
出血部位・量により症状は多彩ですが、突然発症が特徴です。
- 片側の麻痺、しびれ
- 意識障害(昏睡から軽度の傾眠まで)
- 構音障害、嚥下障害
- 失語
- 頭痛、嘔吐
- 痙攣(特に皮質下出血)
- めまい、歩行障害(小脳出血)
- 呼吸障害、両側性神経障害(橋出血)
5. 診断
- 頭部CT:急性期の出血同定に有用
出血量、血腫の拡がり、脳室穿破、脳ヘルニアの有無を確認 - 3D-CTA、MRA、DSA:血管病変検索(脳動静脈奇形、動脈瘤等)
6. 治療
治療方針は出血部位、出血量、意識状態、神経症状、全身状態に基づき決定します。
内科的治療
- 血圧管理:収縮期血圧140mmHg未満
- 脳浮腫管理:浸透圧利尿薬
- 高体温・高血糖の是正
- 頭蓋内圧亢進時の対症療法
- 抗痙攣薬(適応例)
外科的治療
以下の場合に手術適応を検討
- 表在性血腫(皮質下出血)で神経症状進行例
- 小脳出血(3 cm以上、脳幹圧迫、水頭症合併)
- 脳室内出血による水頭症 → 脳室ドレナージ
- 大血腫による中脳・脳幹圧迫
手術法:開頭血腫除去術、内視鏡下血腫除去術、定位的血腫吸引術など
7. 予後・後遺症
- 予後は出血量、出血部位、年齢、初期の意識状態、脳室穿破、再出血の有無に依存
- 脳幹出血は致死率が高い
- 早期からのリハビリ開始がQOL改善に重要