一過性脳虚血発作
脳や網膜などの血流が一時的に途絶えて神経脱落症状(片側の運動麻痺、手足や顔面の痺れ、歩行障害、呂律難、言語障害、視野欠損など)が出現する発作をいいます。通常24時間以内に症状は消失しますが、この発作は「脳梗塞の前触れ」とみなされ、15~20%がTIA発症90日以内に脳梗塞を発症し、そのうち半数は2日以内に脳梗塞を起こすとされています。よって、TIAを疑えば速やかに発症機序を明らかにし、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始することが重要です。
TIA後の脳梗塞発症の危険度予測には、ABCD2スコアが有用です(下図)。
score | |||
A | Age年齢 | 60歳以上 | 1 |
B | Blood pressure血圧 | 収縮期血圧≧140mmHg, 拡張期血圧≧90mmHg | 1 |
C | Clinical features 臨床症状 |
片側の運動麻痺 麻痺を伴わない言語障害 |
2 1 |
D | Duration 持続時間 |
60分以上 10~59分 |
2 1 |
D | Diabetes糖尿病 | 糖尿病 | 1 |
合計スコア | 7 |
TIA発症48時間以内に脳梗塞を発症するリスクは、ABCD2スコアの低リスク群(0~3点)で1.0%、中リスク群(4~5点)で4.1%、高リスク群(6~7点)で8.1%となり、リスク群の重症度に応じて脳梗塞発症頻度が高くなります。
症状
- • 片側の手足や顔の痺れ・脱力
- • 言葉が出ない、呂律が回らない
- • 視野が欠ける、片目が急に見えなくなって真っ黒になる
- • ふらつき、歩行困難
症状は数分~1時間程度で消失することが多く、消失後は通常、神経脱落症状を残しません。
主な原因
アテローム血栓性病変
- 頸動脈や椎骨動脈の動脈硬化(アテローム性プラーク)から血栓やプラーク片が剥がれて脳内の血管を一時的につまらせる
- 頸動脈狭窄による血流低下が直接関与する場合もある
心原性塞栓症
- 心房細動や弁膜症、心筋梗塞後の心臓内血栓が飛んで脳血管をつまらせる
- つまった血栓が自然溶解することでTIAとなる(完全閉塞すると脳梗塞となる)
小血管病変(ラクナ機序)
- 高血圧や糖尿病に伴う脳内小動脈の硬化・狭窄で血流が一時的に低下
- ラクナ梗塞と同じ背景病変
その他の原因
- 一過性の低血圧
- 血液疾患(多血症、凝固異常)
- 頸動脈解離(特に若年者、外傷後)
治療と予防
- 抗血小板療法(アスピリン・クロピドグレル)
- 心房細動があれば、抗凝固療法
- 動脈硬化危険因子の管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症)
- 頸動脈狭窄症を認める場合、CEA(頸動脈内膜剥離術)やCAS(頸動脈ステント留置術)の適応検討
- 生活習慣の改善(禁煙、減塩、減量、運動)